札幌高等裁判所 昭和62年(ラ)117号 決定 1988年3月04日
抗告人 白木巖
抗告人 皆川悦子
抗告人 斎藤芳江
抗告人 白木稔
右抗告人ら代理人弁護士 牧口準市
同 吉川武
相手方 永井幸子
第三債務者 株式会社北海道拓殖銀行
右代表者代表取締役 鈴木茂
主文
一、原決定を次のとおり変更する。
1. 抗告人らにおいて共同して金一三〇万円の保証を立てることを条件として、
(一) 相手方は、別紙目録記載の貸金庫から、別紙目録記載の株券を取り出してはならない。
(二) 第三債務者は、前記貸金庫を開扉することについて相手方に協力してはならない。ただし、相手方が札幌地方裁判所岩内支部執行官に申し出て、その立会いのもとに、前記貸金庫につき、前記株券以外の物件を出し入れする場合はこの限りでない。
(三) 相手方は、別紙目録記載の株券につき、譲渡及び質権の設定その他一切の処分をしてはならない。
2. 抗告人らのその余の仮処分申請を却下する。
二、抗告費用及び仮処分申請費用は、これを通じて二分し、その一を抗告人らの負担とし、その余を相手方の負担とする。
理由
一、本件抗告の趣旨及び理由は、別紙のとおりである。
二、当裁判所の判断
1. 被保全権利等の疎明について
この点に関する当裁判所の判断は、原決定理由第二(当裁判所の判断)一(原決定二枚目表八行目から同枚目裏九行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。
2. 本件株券の現状維持の仮処分について
当裁判所は、抗告人らの仮処分申請1、2(原決定理由第一 申請の趣旨記載のもの。以下同じ。)の仮処分を命じなかった点については、原決定を相当と思料するものであって、その理由は、原決定の理由第二(当裁判所の判断)二のうち二枚目裏一一行目から四枚目表三行目の「不適法である。」までに記載のとおりであるから、これを引用する。
次に、抗告人らが当審において予備的申請の趣旨として求める態様の仮処分(抗告人らが原審で求めた仮処分と訴訟物を異にするとは解されない。)について検討する。この仮処分は、本案請求の範囲を超えるものではないが、相手方の貸金庫の利用を全面的に執行官の監視下に置くことにもなり、その利用に相当の不便を来すことは否定できないところである。しかしながら、本件仮処分申請は、本件株券が本件貸金庫内に保管されている現状を維持することを目的とするものであるから、相手方に対して本件貸金庫からの本件株券の取出しを禁止するだけでは実効性が乏しいのであり、それを実効あらしめるためには、第三債務者に対して、執行官の立会いの下に本件株券以外の物件の出し入れする場合を除き、本件貸金庫の開扉につき不協力を命ずるほかに適当な方策は見当たらないのであって、それ故に、この内容の仮処分方法が本件仮処分申請の目的を達成するに適切かつ効果的であるといえ、また必要な限度であるというべく、その結果被る相手方の不便も、やむをえない範囲内のものとして受忍すべきであるといわねばならず、右仮処分はこれを命ずるのが相当である(ちなみに、本件記録によれば、相手方は、本件に先立ち、札幌地方裁判所小樽支部の仮処分決定により、本件株券を抗告人らに仮に引き渡すべきことを命じられ(右仮処分決定を不当とすべき事由は見いだせない。)、自ら本件株券を本件貸金庫から取り出して抗告人らに引き渡すことにより、容易に右仮処分決定を実現することができるにもかかわらず、右仮処分決定に従わず、本件株券を本件貸金庫に入れたままにして抗告人らに引き渡そうとしないこと、抗告人らは、執行官に対し、右仮処分の執行を申し立て、執行官は、執行のため第三債務者倶知安支店に赴いたが、第三債務者の協力が得られなかったため執行不能に終わったことが認められる。)。
3. 本件株券の処分禁止及び名義書換禁止の仮処分について
前記被保全権利の執行を保全するために、抗告人らの仮処分申請3の本件株券の処分を禁止する仮処分を命じ得ることに疑問はない。名義書換禁止の仮処分について考えるに、本件被保全権利は株券の所有権に基づく引渡請求権であって、証券上の権利ではなく、しかも名義の書換は株主権行使の要件であって、株式の移転自体には関係がないから、右仮処分は強制執行の保全の目的を超えるものというべきである。また、株券の処分禁止の仮処分の執行命令としても、会社に対して名義書換の禁止を命ずることは、意味がない。したがって、本件において抗告人らの申請の趣旨4の仮処分を命ずることは許されない。
三、結論
よって、以上と異なる原決定を主文一のとおり変更することとし、仮処分申請費用及び抗告費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条、九二条本文、九三条一項本文を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 丹野益男 裁判官 松原直幹 岩井俊)
<以下省略>